「栗田、ちょっといいか?」


倉庫の整理をしていると、
店長が声をかけてきた。


珍しい声色。
気まずそうな、警戒したような。

「…はい。何かあったんですか?」


「いや、実は…前話してた女性客が、栗田を呼んで欲しいって言ってるんだ。」


前話してた、女性客……


すぐに頭を霞めたのは、
倉田瑞季と親交のある女性。


そして彼女は最近、やたらとライブに足を運んでいる。


もはや常連になりつつある人。



「わかりました。」


嫌な予感だけを頼りに、
私は店内へと戻った。




コーヒーの香りと共に感じる、
彼女の香水の匂い。


それだけで存在感が充満してる。


「突然、ごめんなさいね。」


言葉とは裏腹に、
悪びれた様子もなく



鼻にかかる甘え声で
私を見つめた。