「すごい!歌えるんですね!」
「いや、そんな全然、下手なんです。
……実を言うと、恥ずかしい話なんですが、私ここに来るまでミュージシャン目指してたんです。
路上でやってて。そしたら、店長が私の歌をたまたま聞いて…
ここでやってみないか?って言われて。」
ミュージシャンという夢は、
あまりにも遠く、儚く。
でも、諦められなくて。
この店で歌うことで、
新しい希望を見つけた気がした。
「素敵な、話ですね。」
「いやいや、恥ずかしい限りです。」
本当に恥ずかしくなって、俯く。
カウンターに戻ろうとすると、
「実はね、」
男性の声が、
私を止めた。