「先輩は、可愛がってくれました。ギターも教えてくれて…曲を作るっていう楽しみも、彼が教えてくれたんです。」
先輩と付き合うようになり、
その年の文化祭、
私は作詞作曲を手懸けた曲を披露した。
そうしたら、予想以上の反響で
みんなが好評価をくれた。
「私、嬉しくて嬉しくて。
音楽の魅力にのめり込みました。
けど…先輩は、それ以来私を避けるようになって…」
「嫉妬だ。」
倉田瑞季は苦笑して、
入れたお茶を口にした。
「彼は、君の才能を素直に受け入れられなかったんだよ。
ましてや後輩だし。」
「確かに、そうだと思います。
先輩は、私のことが好きだったんじゃなくて、
彼の才能に惚れてた私が好きだったんです。」
そう。
慕われていることに、優越感を覚えていたのだ。
「先輩とは別れて、軽音部も辞めました。
けど、音楽だけは、やめたくなかった。」
だから、今の私がいるんです。
「高校卒業して、ミュージシャン目指してても、道は開けなくて。親とは喧嘩するし、最悪で。
そんなときに店長と出会って、
仕事も出来て、幸せだなって思います。」
慰めじゃなくて、諦めじゃなくて
本当にそう、思うから。