それから近づき、 私の首にかかったまんまの、 彼のマフラーを 丁寧に首に巻き付けながら 呟いた。 「こちらこそ、ご馳走さま。」 いつもと違う、笑い方。 あの歌っていた、 初めて出会ったときとは まるで別人のよう。 ――知らない。 私は、倉田瑞季のことを、 何もわかってない。 目が合ったこの時間、 ずいぶんと長く感じた。