「音楽はね、何だろう、唯一…自分が自分でいられるんだ。」


「自分が、自分で、いられる…?」


「そう。辛いことも、何もかも…忘れられる。」


そう言って目を伏せて、
哀しげに笑う。


パスタを巻こうとした手を止めて、


哀しげに光る顔を、
じっと見つめた。


何か気の利いたことを言わなきゃいけないけれど、


彼の目の先に映る景色と、
私の世界は違う気がして、


何も、言えなかった。


「…俺…」


「えっ?」


彼の目線がゆっくりと上がり、
上目遣いの形で私を、見る。


「俺、実は………