だって、
「誰から…」
このこと話したのは、
「聞いたんですか?」
あの人しかいないのに。
彼女の営業スマイルは一瞬にして消えた。
「しまった。」
そんな感じに口元に手を当て俯く。
つっ立ったままの私たちを不審に思う店員たち。
でも今は、そんなのどうでもいい。
「み…倉田から、聞いたの。」
“瑞季”
そう言おうとしたのが、
すぐわかった。
ふと顔を上げ、
不敵な笑みで私を見る。
「私ってば、ダメね」
なんてポツリ呟く。
「まだ、言うつもりじゃなかったのに。」
「どういう、意味ですか?」
微かに、自分の声が震えだす。
「まだ、言うべき時じゃなかったんだけど……
私ね、あなたもよくご存知の、
倉田瑞季の婚約者なの。」
――婚約者…?