何故だろう?俺はこの時、この目の前に居るジャンヌに、嘘の名前を言えなかった。


“咄嗟に名前が思い付かなかった”…


いや…違う…


“俺は基本的に嘘が嫌いだから”…


確かにそうだけど…それも違う…


じゃあ何故?…


その答えを俺が知るのは、ずっと後の事だった…


しかし、少なくとも、この時の俺は、この目の前のジャンヌに“嘘を付いてはいけない”俺はそう思った。

すると、ジャンヌは俺の手を握り、こう言った。



『立てますか?』


“パシッ”


『あぁ。』


『ジャンヌさんを、ミカエル様の所まで連れていきますね』


『え』


『上手く説明出来ないんですけど。何故か…今、私は、貴方と私では、住む世界が違う人に思えたんです』


『貴方は…ジャンヌさんはきっと“ここに居るべきでは無い人”に思えたんです』


『だから…だから私がミカエル様の所まで案内します』


『私は、貴方の事に付いては、もう何も聞きません』


『言いたく無い事や、言っちゃいけない事があるんですよねきっと。』


『だから私は何も聞かずに、ただ貴方を…ジャンヌさんを“元の世界”へ…』


『ジャンヌさんの“居るべき世界”へ還します』


『きっと、ミカエル様もカトリーヌ様やマルグリット様も、その為に私に貴方を捜す様に命じたのだと思うから』


『だから…だから今は私について来て下さい』


『あぁ。分かった』


『でも…これだけは言わしてくれ』


『“ありがとう”』


『はい』



こうして、俺の手を引っ張りながら、ミカエル達の声が聞こえた場所へと案内してくれたジャンヌ。


そして、そのジャンヌに連れられて行く俺。


そして、俺とジャンヌは、森で俺が初めて居た場所に辿り着いた。