しかし、そんな俺の安心とは逆に、ハイドから出て来た言葉は意外なものだった。



『あぁ確かに俺の相手はたった一人だった。…』


『でも…負けた…』


『負けた?』


『俺は、アイツにかすり傷一つ付けられなかった…』


『かすり傷一つも付けられなかった?ハイド、お前がか』



すると、ハイドは震えながら涙を流し、両手を握り締めながらこう言った。



『それどころか俺はアイツに剣すら使わせずに遊ばれてた…』


(ハイド…)


『ロー……俺、悔しいよ…』


『憎かった』


『悔しかった』


『親父の敵』


『お袋の敵』


『仲間や友達の敵…』


『アイツら軍の奴らは俺から全てを奪って行った奴らなのに…俺はそんな奴らの一人すら倒せなかった。』

『倒せなかっただけじゃない。何だかんだ理由を付けて、結局のところ俺はアイツから逃げてきたんだ…』


『嫌だよ、俺…そんな自分が嫌だよ…』


『弱い自分…』


『無力な自分…』


『逃げ出した自分…』


『もう逃げたくない…』


『俺、強くなりたい…』


『自分を守れる位。』


『大切な奴を守れる位。』

『誰からも逃げずにすむ位。』



俺はこの時初めてハイドが泣いた姿を見た。


いつもは自信に満ち溢れ、軍の奴らやこの世界に負けないと言い続けて来たハイドが初めて本当の敗北を味わった涙。


そしてそんなハイドを見た俺はハイドの肩にそっと手を載せこう言った。



『大丈夫…俺達はまだまだこれからだ』


『大丈夫…俺達はいずれ、この世界のトップに立つんだぜ?』


『生きている限り俺達は何度でも立ち上がれる』


『だって生きてるんだから』


『俺達はこれからも負ける事があるかも知れない…でも、何度負けてもその分また何度でも立ち上がれば善いだけの話しじゃねぇか』