「最近ずっと同じ夢ばかり見るの。
息苦しくて、辛い夢。
黒いもしゃもしゃした綿みたいな物に追いかけられて、押し潰される夢…みたい。
それにね。たぶん、たぶんね。
五十嵐から見越入道を聞いた後から…出てくるの」

思い出して怖くなる。
気づかないうちに両腕を抱えていた。

「それが…それでね」

言わなきゃ。このことも。

顔をなんとか上げる。
なんでこんなことで勇気使ってんだろ。私。


「私が、その、走りを期待されて陸上部に勧誘されたのは、知ってる?」
自分で言うのは気恥ずかしい。

「うん」
五十嵐は邪魔にならない相槌だけ打つ。

「でも、私。走り高跳びがしたくてね。させてもらっ…」

言葉に詰まる。

「させてもらって…てね。
それで……その……、
夢の黒い綿がね……」