昼間だというのに薄暗くて冷たい地下街の隅に佇む喫茶店のドアを開けると同時に鈴が鳴った。

店内には人気は無く、カウンターにマスターがぽっりと立っているだけだ。

カウンターに座るとマスターは微笑みながらポケットから鍵を取り出して俺が座っているカウンターテーブルに鍵を置いた。

「今日は、特別室は使わないよ」

マスターは「そうか」と呟き、再び特別室の鍵をポケットに戻した。

俺は、昨日の不可解な依頼の事をマスターに話すと、マスターは楽しそうに「お前はいつも余計なオマケを持ってくる」と笑った。

「マスターにプレゼントしに来たんですよ」

と俺は笑えない冗談を放つとマスターは目尻に皺を寄せて、

「まだ、グリコのオマケの方が嬉しい」

と笑いながら俺に呟いた。

「何故、仲西雄大は俺に嘘の情報を伝えたんですかね??癌なんて病気になっていなかったし、死んだはずの母親も存在しているんですよね」

とマスターに愚痴を溢しても意味はないのだが、自分の中にあるもやもやを誰かに聞いて欲しい気分だったのだ。

マスターは俺の愚痴を一通り聞いて、長く伸びた顎髭を触りながら放った。

「お前は仲西雄大の依頼を受け、この不可解な事件に関わってしまったんだよ。この不可解な事件の結末を知りたいなら自分で真相を探るしない、どのミステリー小説も自分で真相を探るだろう」

とマスターは俺に語り、俺がいつも頼む珈琲を淹れてくれた。

「結末を知りたいなら自分で真相を探れですか、それじゃあまるで探偵みたいですね」

と珈琲の香ばしい匂いを嗅ぎながら放つと、マスターは優しく呟いた。

「殺し屋は依頼を完璧にこなす、その為なら探偵だってする。殺し屋に中途半端という文字は存在しない。まぁ、これはワシのポリシーでもあるだがな」

俺は、マスターの言葉を宙に浮かべながら珈琲を口に含んだ。