「ねぇ、それ、チョコでしょ?」

学ランの視線の先をたどれば、私の鞄……からこっそり顔を覗かせたピンク色の包装紙。

「…………な、なななな」

私は慌てて、見えてしまったそれを鞄の奥に押し込んだ。

「食いたいんだけど」

コ、コイツは、14日に“それ”を渡す意味を理解しているんだろうか?

「あ、ついでにこっちも食いたい」

タバコを持たないもう片方の手が伸びて、その人差し指が私の胸に一直線。

コ、コイツ……

「な、なななな何を」

慌てる私をよそに。

冷静な学ランは、もう目の前を通る女子高生のなまめかしい素足を嬉しそうに眺めていた。

女なら誰でもいいのかよ?

通り過ぎる女も女で、愛想笑いなんか向けたぐらいにして。

なんか、微妙に負けた気分。

悔しいじゃん。

私は、さっき押し込んだピンクの包装紙をもう1度鞄から引き抜くと、学ランのアホ面目掛けて投げつけた。

途端に

「あ゙?やんのか?」

学ランが怖い兄ちゃんに早変わり。

「や、やってやろうじゃねぇか」

売り言葉に買い言葉。

──あれ?

何?

なぜ?

戦闘モードで構えた私に、なぜかふふんと含み笑いしたコイツは、スクッと立ち上がると意味ありげに私の肩に腕を回す。

「女に二言はねぇな?」

「……」

「ヤるんだな?」

「なっ」

意味が違ってんじゃねぇかっっ!!

「な、ななな何ハメてんだよ!冗談じゃねぇぞ、こら」

ふざけんなー……

と、叫ぶ私の声も虚しく、鼻歌まじりなコイツは、私の首に回した腕にしっかり力を込め、その先のピンク色した建物が並ぶいかがわしい街へレッツゴー。

桃色
桃ちゃん
ピンク色

桃色
桃ちゃん
俺のもの

「何の歌だよ」

聴いたこともないおかしなメロディーに私の名前が入ってる。

作詞作曲絶対コイツだろ。

「桃色恋物語♪」

でもなぜか怒る気になれなかったのは、最後の歌詞が

桃色
桃ちゃん
“お前だけ”

だったから。

私、超単純じゃん。

「桃〜!愛してるよ〜」

「ふざけんな」