『こんにちは。毎日寒いですが、お元気で──』

図書館の1番奥、窓際の席に座った相澤良子は、先程自らが送信した、限りなく寒中見舞いに近いメールを読み返し、ため息をつくのだった。

「はぁ」

(こんなんで、趣味が携帯小説書くことだなんて言ってる自分が情けない……)

送信相手はマブダチを誓った玉置君。

胸のモヤモヤに耐え切れなくなった良子は、行きつけの図書館で『もし私が玉置君を呼び出すとしたら……』と仮のメールを作成していた……はずだった。

なのに、携帯の下で開いていた本が突然パタンと閉じ、本に押された指が勢い余って送信ボタンを押してしまったのだ。

(ドリフじゃあるまいし、どんな偶然だよぅ)

今更嘆いても仕方がない。

送信して間もなく、玉置からは『今行く』という簡単メールが返ってきたのだから。

(呼び出して、どうする?)

正直、良子には玉置に聞きたい事があった。

けれど、それを聞くのはマブダチの領域を越える行為にも思えて。

「はぁ」

良子は得意の妄想もできないほどに憔悴しきっていた。

そもそもの始まりは、1週間前。

良子の大好きな携帯小説の発売日の事。

ルンルン気分でスキップまでしてしまいそうな勢いで向かった本屋で、良子はその場にひどく不似合いな真っ赤を見つけたのだ。

その真っ赤が玉置の頭だと気づくのに、そう時間はかからなかった。

そして、不似合いな真っ赤がそこにいる事よりもさらに驚いたのは、その隣に綺麗な女性が寄り添っていた事。

その横顔は、玉置が以前恋をしていたリエちゃんに似ていて。

2人は私が買おうとしていた本を共に掴み、笑い合っていたのだ。

(玉置君、その人、誰?)

なぜだか胸の奥がチクンと痛んだ。

結局、本を買う事も忘れ。

気づけば自分の部屋のベッドに寝転がり、笑い合う2人の映像を何度も頭の中のスクリーンに映し出し、ため息をつく良子がいた。

(玉置君、あの人、誰?)

聞きたい。

聞けない。

聞いてはいけない。

でも、気になる。

そのモヤモヤの意味するものが何なのか、この時の良子には知るよしもなく。

溢れ出しそうなほどに膨張したモヤモヤをどうにもできずに、今に至るのだった。