夜空を見上げる尚人を見つけた。

その肩には、こぼれ落ちそうなほどに降り積もった、雪。

『遅れるって伝えてくれる?』

同じバイト先の彼女が、中番だった私に伝言をお願いしたのは、つい先ほど。

人が良すぎる彼女は、今日休んだ人の分まで働こうとしていて。

「……高田さん、来ないよ」

私は尚人に近づくと、彼の肩の雪を落としながら言った。

「え……?」

それは、彼女がお願いした伝言とは真逆のもの。

だって……。

「私、見たんだ」

尚人の視線が真っ直ぐ私に向かった。

「高田さん、他の男の人と仲良く手繋いで歩いてた」

そんなの、嘘。

「私、見たんだもん」

悪あがきだって、わかってるけど。

「尚人の事なんて、ただの弟みたいにしか思ってないよ」

好きなんだもん。

「だから、今日も来ない」

とられたくないんだもん。

「来るはず、ないよ」

負けたくないんだもん。

私は彼女より、もっとずっと前から尚人を見てきて、誰よりも尚人を想ってるんだから。

尚人は悲しそうな顔をすると、そのまままた、ゆっくり夜空を見上げた。

そして、低い声で言う。

「……それでも、いいんだ」

それでも、いい?

「それでも、もう止められないんだ」

止まんない?

「……それでも、好きなんだ」

それは、もう……。

──パサッ。

力の抜けた私の手から、尚人に渡すはずだったプレゼントが滑り落ちた。

今日は、尚人の誕生日。

「……ごめん、な」

地面に落ちたリボンを見つめながら、尚人が私の頭にポンと手を乗せた。

「……なんで?」

なんで彼女なの?

年上の、私から見たらただのオバサン。

こんな事になるなら、尚人を私のバイト先に呼んだりするんじゃなかった。

そしたら彼女に出会わずに済んだのに。

そしたら私にだって、もう少し望みが……。