すると壁の一部が風景をクローズアップした。

そのテクノロジーには当然驚愕したが、それよりもっと僕を驚かせたのは、映し出された

風景だった。

遥か下方に見えたのは、僕の部屋からいつも見ていた、そして毎日歩いて通った中学校へ

とつなぐ急な坂道だった。

回りの設備、殊に照明や僕には理解の出来ない建造物はあるが、あの急坂の角度、そして

坂の真ん中辺りで左に大きくカーブする感じは、まさに僕が中学生だったあの頃のまま

だ。

「どう?見覚えあるでしょ。」

その後彼女は、家のすぐ近くにあった縄文人の古墳跡や当時開通し今も経路を変えていな

い高速道路など当時の面影を残す箇所を僕に見せてくれた。

「この部屋は、だいぶ高いところにあるようだね。」

僕は、そう彼女に問いかける事で『これが夢ではなく現実なのだと理解した』と言うこと

を伝えた。

「そうね大体300メートル位かしら。」

「正確には350メートルだと思うよ。」

「えっ?」

彼女が怪訝な顔で僕を見る。

「あの高速道路の向こうに見える山の高さが350メートル、この部屋の床との角度と、

さっきクローズアップされた時のフレームとの角度からするとここは、ちょうどその高さ

になるはずだよ。」

あの山には、幼い頃から何度も登った。

頂上に牧場のある山。

その山もまた姿を変えず、今僕の目線の先にいる。

「まぁ、あなただったらその位簡単に割り出すでしょうね。」

彼女は、さして興味もないわと言う様に手の平を上に向け、おどけた。

超高層ビルの一室から見下ろす世界にしばし食い入る。

思いの外、緑は残されている。

幹線道路らしき物は透明なチューブで覆われ、その中をカプセルが引っ切りなしに行き交

っている。どうやら空気圧を利用している様でカプセルはわずかに宙に浮いているかに見

える。

このビルの他にも一定の間隔をもって超高層ビルが建ち並んでいるが、その配列自体が幾

何学的であり、そこからこれらの建造物が単一的ではなく計画的に造られたとの印象を得

る。