そうね、この光景をあなたが見ている現実の大前提として捉える場合何が必要か、まずそ

の事を受け入れることね。」

「タ、タイムトラベルだしかし、まさか‥‥。」

長い沈黙の後、僕はやっとの事でその言葉を絞り出した。

「あら、あなたが生きている時代の段階で既に理論上は実現していたわよね。」

「確かに机上では、理論上ではそうだけど僕はまだ構造上完全でないと考えている。」

「今もそうよ、構造上完全では無いわ。」

「だけどじゃあ僕が、過去からやって来たと言う現実をどう説明するの。」

「そうね、人類は比較的早い段階で未来へ行く手段を手に入れたわ。光速に近い速度とコ

ールドスリープでね。いわゆる浦島太郎現象ね。今は開発当時より、だいぶ効率的になっ

たけど基本は一緒。ある生命が単体もしくは数十数百の単位で時空を飛び越えるだけ。だ

からあなたのお察しの通り過去には行けないわ。そして利用価値についても懐疑的で積極

的な活用は、表面上されてないわ。」

「それは理解できる。過去は、過ぎ去りし存在せぬものだからね。」

少し気持ちにゆとりが出て来た。

考える事を始めたからだ。

「じゃあ、なぜ僕は‥‥。」

今この時が現実なのか夢なのか、目の前に広がる光景を前にただ呆然としたがる気持ちを

奮い立たせ拳を強く握った。

「そうね、それを理論的に説明するより、せっかく外見られる様にしたんだから外見よ。

大体こんな時はみんな『これは夢だ』で片付けるから、まずそこから否定しよ。」

半分当たっているだけに何も言い返せなかったのと、外の風景への圧倒的な好奇心が僕を

素直に従わせた。

「そうね、あなたの時代から余り姿を変えていない物はと。」

彼女はそう言いながら、透明になった壁に向かって、まるで魔法使いか指揮者の様に指先

を振った。