「結論から言いますと、ここは‥‥。」
僕は固唾を飲んで彼女の言葉を追った。
「ここは、あなたのお部屋です。」
意味の無いざれ言を事もなげに言い放つ。
そして続けて言う。
「と言っても別に『今日からあなたのお部屋ですからご自由に』って言う意味でなく、ここはあなたのお部屋なんです。」
一瞬頭をよぎった言葉の遊びまで否定された僕は、戸惑いの表情を作るのが精一杯だった。
「正確に言うならば、『かつてあなたのお部屋があった場所』と全く同じ地点です。高度は違いますけどね。」
かつてって、高度が違うって、その発言から推測される状況が本当である確率は限りなくゼロに近い。
つまり嘘だ。
何故なら、いや言うまい
それは理論的に不可能。
「あーやっぱり嘘だって顔。さすがのあなたも、いきなりは受け入れられないか。でも今、瞬間的に凄い勢いで確率の計算してたでしょ。そんな顔してた。『量子力学的には、何がおきても不思議ではない。全ての事象が全く起こらないと完全否定する事はできない、絶対は無い事が絶対だ』ってあなたの口癖はどうしたの?。医者から神学者まで随分逆なでてたって話しよ。」
僕は、一瞬この事態を信じそうになった。
彼女が僕の口癖を言い当てただけの事で。
「あーまだそんな顔して、もう面倒だからこれを見て。古い言い伝えでこう言うんでしょ『百聞は一見にしかず』だっけ?」
それは‥‥言い伝えではなく、ことわざだと、言ってやろうと口を開きかけた時、指を鳴らす音が2回部屋に響いた。
瞬きをする間もなく部屋中の壁が透き通り、僕の目の前に初めて彼女以外の風景が飛び込んで来た。
その瞬間、全ての計算が僕の頭から吹き飛んだ。
この時僕は一体どんな顔をしていたのだろう。
「こ、これは、そんな馬鹿な‥‥。これが現実であるためには前提として‥‥‥。」
目の前に広がる信じ難い光景を何とか理解の範疇に引き寄せ様とする。
必死に言葉を探す。
しかし、結局僕は絶句するしかなかった。