ぼんやりと、いや、まじまじとその姿を見回す僕に彼女が言う。
「今私の事を、この世のものと思えない位美しいと思ってくれているでしょう。」
見透かす様に、可笑しげに、そう言った。
僕は罰悪くそっと彼女の目を見た。嘲笑の視線を覚悟していたが、なんとその目は、陶酔とも言えぬ、えもいわれぬ、うっとりとした潤みをおびていたのだ。
「そんな目で見詰められるのは本当に久しぶり。もしかしたら生まれて初めてなのかもしれない。」
美しき女性の良き習慣である謙遜?にしては随分大袈裟だなぁなどと考えながらも侮蔑の視線からもまのがれにホッとしていると続けて謎めいた事を言う。
「ドクターからはあなたに全ての事を伝える様に指示が出ているけど‥‥もう少しぐらいに愉しんでもいいわよね。」
何を言っているのかさっぱりわからない僕に彼女は同意を求める視線を送った。
「あの‥‥」
やっと口を開いた僕を彼女が遮る。
「嫌ぁ、お願い。何にも聞かないで、私まだ何にも教えてあげないの。もう少しだけ、もう少しだけこの称賛の空気を味わせて。」
何もそんなに必死にならなくとも、これだけ美しければ日々称賛されているだろうにと思いながら
も、つい従って黙り込む。
そしてあらためて彼女の姿を見る。
長身に白衣をまとった彼女は、にも関わらず黒猫の様なイメージを見る者に浴びせる。
しなやかに長い四肢は、何処もバランス良く今にも弾け跳びそうだ。
しかし、こんな事態にあってなお、目の前の女性に興味のほとんど全てが向けられているとは、と自分に軽く嫌悪感を抱きながらうつむく。
おとなしく黙り込む僕をさすがに哀れに思ったのか、観念したかの様に彼女が口を開いた。
「ごめんなさい、そうよね目が覚めたらいきなり訳のわからない事になっているんですものね。私が愉しんでる場合ではないわね。」
何を今更と思いつつ黙って聞く。
「おそらくあなたが今、知りたい事の1番は、私の事ではなくて、ここが何処なのかという事ね。」
いや、実はそうでもないとの言葉を飲み込むと彼女は続けて言った。