私は引っ掛かっていた言い回しを我慢出来ずに投げ返した。

「死のうとしてない?そんな訳ないでしょ?真冬の海よ?それもこんな沖まで泳いで来て?死ぬ気がない人間がやることじゃないわ!」

私は呆れたようにそう言う彼女に核心的に返答した。

「俺は全然死ぬ気なんてない!」

「馬鹿じゃないの?あんな事して生きてられると思ったの?私がいなかったら確実に死んでたわよ?」

「そうだね本当に感謝しているよ…でも死ぬ気なんて全然ないさ!むしろああしなければ生きていられなかったんだよ…」

「なに訳わからない事いってるの?」

「俺の事はいいだろう?頭がおかしいとしても生きようってんだから…それより君はなんで死のうなんて考えたんだ?」

「…放っといてよ!」

私が言うや否や物影からぶっきらぼうに突き返すが続けて言う。

「それだけの美貌に荒海の中に飛び込み溺れる男を助け出す体力?って言うか健康?それにこんな大きな船を所有できる財力?死にたくなる気がしれないよ。」

彼女は私の言葉を聞いてはいたがキャビンの奥に何かを探している様だった。
再び暫しの沈黙が訪れる。所在無気に辺りを見回す。ちょっとしたクルーザーだ。外洋まではちょっと無理だろうがキャビンの大きさからいってある程度船上で生活できるだけの装備はありそうだ。
値段もちょっとやそっとじゃないだろうななどとぼんやり考えながら今度は海に目をやる。

全く陸地が見えない。
彼女が言うように正気の沙汰ではないなと改めて実感する。

こんな沖までよくもこの冬の海を泳いだものだ。

まさに女は魔性か…などと頭のなかで呟く声に自問自答する。

女?

確かに男か女かと問われれば私が男である以上女か…しかしそんな知り得るカテゴリーで捉えられる存在だったらどんなに幸福だろうか。

私は彼女をこの腕に抱きしめ二度と離なしはしないだろう。

「何をぼんやりとしてるの?」

キャビンの方から人魚が問いかけてきた。

「いや、こんな大きな船のオーナーはどんなに素敵な方かなぁと思ってさ。」
頭の中を覗かれまいと、はぐらかす様におちゃらけて言う。

「はぁ~?オーナーはここにいるじゃない!」

そう言いながらすっかり身仕度を整えた彼女がキャビンから出て来た。