「………。」

「何よ!なんか文句ある?じっとこっちを見たりして…そのくらいの代償は当たり前でしょ?」

「いや…文句なんかないけど…」

「だったら何よ!」

「あの……」

「何よ!言いたいことがあったらはっきり言いなさいよ!」

「あの…毛布が落ちてます…けど…」

次の瞬間…もう一度視界に電撃が走った。
私は敢えて不覚を選んだ素直な自分の事が少しだけ好きになった。
ハリケーンはと言えば慌てて毛布を巻き込みデッキの影へと走り去りこちらに向かって何か言おうと私を睨み付けている。

「本当にあのままふたり共死んじゃえばよかったのよ…

物陰から投げ掛けた言葉にどういう訳かさっきまでの勢いが感じられない。

「それじゃあ俺の立場がないよ…俺の為にこんな美しい女性がこの世からいなくなっちゃうってことでしょ?」

「いいじゃない!どうせあなたも死ぬ気だったんでしょ?ちょうどいいわ…それに私だって良いことしてから死ねば天使が迎えに来て天国に行けただろうし…美しいままね…美しかったんでしょ!」

ことさら語尾を強めて同意を求める。まるでうっかり喋ってしまった秘密を誤魔化すかのように…。
しかし私にはどうしても彼女の言葉が引っ掛かってしまう。

「もうひっぱたくのは勘弁してくれよな?美しかったよ、死ぬにはまだまだおしい…でも…君は今、どうせあなたもって言ったよね?悪いけど俺は死のうとなんかしていないよ?君は…もしかして…死のうとしてたのか?」