「…そう…批評する価値もなかったってこと…なのね…」
背中を向けていてもわかる程にさっきまでの自信に満ちた物言いは消え失せうちひしがれ泣き出しそうな様子がひしひしと感じとれた。
ここに来て初めて私は命の恩人にひどい仕打ちをしていた事に気付き慌てて振り返り口を開いた。
「そんな事はないよ!この世の者とは思えない程美しく魅力的…だった?よね?きっと…」

振り返った先にはうちひしがれた女はいなかった。
やられた、引っ掛かったと気付き語尾を微妙に変化させ悪あがきをするが間に合わない。
私の必死の回避であった語尾を彼女の次の言葉が打ち砕く。
「なーんで語尾がクエスチョン的なわけ?」

今度は明らかに語気が強まったのがわかった。振り返った私の視線の先には、背中で感じとっていたうちひしがれた彼女の姿はなく、代わりに獲物を追い詰めた猫の瞳が待っていた。

「やっぱり見てたのねいやらしい!」
「命懸けで人命救助して前後不覚になってる女の躰盗み見るなんて最低!」

「最低…ってしょうがないだろ、あのままだったら二人共冷たくなってたんだぜ!それにこっちだって寒くて死にそうだったんだ。ゆっくり堪能してる余裕なんてないっての!」

「堪能って!変態!死んだらよかったのに!」
「だから、ああしなかったら二人共死んでたんだって!」
「私の事は放って置けばよかったでしょ!」
「わかんない奴だな、二人で生き延びるか二人で死ぬかの二者択一なんだって!」
「だから二人で死ねばよかったのよ…」
「は?じゃあ何のために俺を助けた?」
「知らないわよ…」