「ん?私達もしかして何?その文脈からいくと、同じものを追いかけて来たのって続くと一番自然なんだけど?」


「まさか…ね」

ミューが呟く。


「と、思うよ…俺も…だって俺の追いかけているものは時々俺自身ですら信じられなくなる程だからね。」

私は自嘲するがミューはハッとした顔をする。


「私も同じなんですけど…」


「同じなんですけどって……ミューも?自分でも信じられなくなるものを追いかけてたの?」


「そう…」


私はミューの言葉に戸惑った。

私とミューが同じものを追いかけているはずがないと頭では理解しているのに、第六感的な感覚がもしやと頭をもたげる。

この期に及んでわかった事実だが二人のとっている行動は実は良く似てもいる。
真冬の海に飛び込み果てなく泳ぎ続けた私と、燃料が尽きるまで船を走らせたミュー。

そしてミューも何かを追いかけて来たと言う。

私はある決心をした。

どうせこのままでは、よほどの奇蹟でも起きない限り漂流の果てに待っている結論はゆるぎない。

今まで誰に話す事もはばかれた秘密であったが…

偶然にも最期の時を共にする事になったこの美しい女に死の床に就くまでの夢物語として語ったところでなんの害がある?

誰がバカにする?

この海の真ん中で何の不利益が生じる?

私が語る事で想定されるデメリットよりもこの同志を得られる?同一体験を持つ仲間が得られるかも?と言う欲求の高まりを抑えられそうになかった。


「ミュー?」

「何?」

「笑わないで…いや笑ってもいいや。俺の追いかけて来たものの話を聞いて欲しい…」

「笑ったりしないわよ。」
ミューの瞳が深みを増す。
「初めは…初めは白い手…真っ白い手だったんだ…」

私は目を瞑り思い起こしながら口を開いた。