「何考えてるの…」
見下ろす様にミューが言う。
「ミュー…」

「何よ?」

「いや…ちょっと見ないあいだに…」

「何?」

「ちょっと見ないあいだにきれいになった…」

ミューの顔を眩しげに見上げる。

「またそんなこと言って…誰にでもそんな風に言ってるんでしょ…?」

「…………。」

無言でミューの目を見詰める。

苦悩を断ち切った先に不意に現れたミュー。

私はミューを見て素直にそう感じたのだ。

生き抜き活路を見出だそうと想いを新たにした自分自身の変化だけではなく、確かにミューは美しさを増していた。

美しい瞳…

「それに…ほんのちょっとデッキに行ってただけだもん…」

そう言いながら視線を少しだけ外すミュー。

「だから…」

「だから?」

外した視線を戻して次の言葉を催促する。

瞳は深さを増し私を吸いよせる。

「だから…そのあいだに美しくなった…」

およそこんな大きな船を操るとは想像もつかない透き通る様な手のひらを口元に運ぶと親指をくわえるように添えるミュー。

そのしぐさは、まるで不意をついてしまいそうな次の言葉を軽く抑え、想いだけを薫らせているようだった。

「ばか…」

吐息の様に私に吹きかける。

「どうした?」

短めに返す。

「あなたのせいで…」

「俺のせいで?」

「でも…もうどうにもできない…」

乱れる文脈にうまく想いを吸い上げられない。

「何をどうにもできないの?」

混乱した流れを戻すためにオウム返しに問いかける。
「もうここから…ここから動けないもん…」

「!」