「琴音、良かったわね。だから、母さんも言ったでしょ。あなたのことを分かってくれる人は、きっといるって」
「そうね、本当に・・・この怪我のせいで『一生、就職できないかもなぁ・・・』って思ったもの。それに、ずっとお小遣い貰ってたら、父さんと母さんの老後も大変だろうし」
「まぁとにかく、自分の居場所ができたから良かったじゃないか。これから、昼夜逆転の生活だろうけど、頑張り過ぎないようにな」

琴音は今、父の武瑠(たける)・母の佐由子(さゆこ)と共に、自宅のリビングにいる。


琴音は、昨夕から今日までのことを、両親に全て話した。

正直、琴音は話すかどうか迷ったのだが、意外にも二人は喜んでくれた。

武瑠も佐由子も、娘を理解してくれる人がいたというだけで幸せだった。



「そろそろかな。じゃあ、行ってくるね」
「頑張ってね・・・あっ、琴音、ちょっと待って」

佐由子は、一通の封筒を差し出した。

「私と父さんで書いた手紙よ。向こうの方にお渡ししてね」
「ありがとう。行ってきまーす!」



琴音は、自宅のある団地を出て、近くの飲食店の駐車場に来た。



空色のオープンカーから、悠治が手を振っていた。

「あ、悠治さん。わざわざすみません。送り迎えして頂いて」
「いや、大丈夫だよ。うちの店は遠いから」


琴音はあの日、少しの距離だがタクシーも使っていて、自分でも気付かないほど遠くまで行っていた。

道に迷うのを心配した悠治が、琴音の家の近くから、愛車での送り迎えを申し出たのだった。