「たぶん、彼女にも呪われる理由があるのね。――相田さんには、心当たりない?」

「わ、わかんないわよ、そんなの……」

「――嘘」

「うっ、嘘じゃないっ!!」

「嘘よ。なにか知ってるでしょ。吐きなさい。吐くのよ相田芽衣」

彼女の真似をして逆に詰める。四つん這いになって近寄る。

「ひっ」

と悲鳴をあげた相田が、コーヒーカップを投げた。ゆいは首を傾げるだけでそれを避ける。薄ら黒い液体が、ゆいの後方にぶちまけられた。高い音をあげてカップが砕け散る。

相田は尻の下にあるクッションを抜き、それでゆいを殴り始めた。痛くはないが、鬱陶しい。

「い、いやっ、来ないで、来ないで来ないでぇっ!」

「うっさい!」

気は、長いほうではない。

一瞬の隙を突いて相田の手を掴み、床に押さえつけ、口を手で覆う。一気に耳元へ口を近づけ、

「騒ぐんじゃないわよ。また木霊に声を盗まれたいの?」

「っ……」

幻想の力で脅しをかけた。相田の腕が、萎れるように力を失う。

静かに顔を離すと、相田は声を殺して泣いていた。それが恐怖からではないと、ゆいには汲み取れた。

顔を手で覆い、口を歪めて、喉を痙攣させ、相田は嗚咽を漏らす。