木霊は木の精霊として流布され、主には、山びこの説明して生まれたのである。

発せられた声に対して同じ言葉で返事をする――もし木霊が実際に存在するとしたら、それくらいしかない。

精霊の存在を信じるわけではないが、仮に木霊が実在していても、被害という言葉が腑に落ちなかった。

「それ、ウチで?」

と、ゆいは燈哉の横に座る。あぐらではない。足はきちんと揃えている。

「ああ、ウチで。それどころか、俺らのクラスでもたしかひとり、該当者がいる」

「ほんとに?」

初耳だった。

どうせ、実在するかも疑わしいどこかのだれかが被害に遭ったとかいう噂の域ではないらしい。

「学校じゃ、まことしやかな噂だ。木霊の四辻で自分の声を聞いたら、取り憑かれるってな」

「木霊の、四辻……」

「それがどこにあるかは知らん。けど、木霊に取り憑かれたって神経すり減らして、学校休んじまってるらしい」

「ひょっとして……国語の大野と相田さん?」

「そゆこと。ほかのクラスでも、何人か、な」

「なるほどね。それでテストがって?」