「その部屋……木霊がいるわ。ひとりで怖くない?」

それだけで、電話を切った。

もちろん電話で言ったような木霊などいるはずもない。

しかし、相手は精神不安定な状態にある。昨日の八木、今野のありさまからしても、それはよくわかる。

もてあそぶようでいい気はしないが、効果は覿面だった。留守番電話の音声は、たとえ受話器を持ち上げなくても部屋の中に響くようになっている。部屋の間取りから考えても、固定電話の音声は相田芽衣な聞こえている。

木霊という音声だけの恐怖に怯えている彼女が、自分の入れたメッセージを聞き逃しているはずがない。

秒の間をおいて、ゆいの嘘に恐怖心を揺さぶられ、耐えられなくなった相田芽衣が飛び出してくる。同時に、ゆいへすがりついた。いきなり叫ばれる。

「こ、木霊なんて、う、嘘でしょ……う、う、嘘って、嘘って言って……!」


膝が濡れた。泣いているのか。それとも鼻水か。八木麻衣子と同じくボロボロのクラスメイトが、憐れだった。

「ええ、嘘よ」

だから素直に白状したのだが、

「うっ、嘘!!」

相田は叫んだ。こちらを見上げた顔がやはりぐしゃぐしゃに濡れていた。