「いいよいいよ、聞かせてやるよ」

改めて起き上がる燈哉が、口角を吊りあげてわらっているのが、非常にムカついた。

またあぐらを掻いた千里ヶ崎燈哉は言う。

「なんでも、木霊が出るらしい」

ゆいは、じっくり時間をかけて、呆けた。

「は? ……あーごめん、なんて?」

「木霊」

「あの、木の精霊?」

「その、木霊」

「どこに? いや、というか、そんなバカな」

もともと、木霊と呼ばれる木の精霊が生まれたのには、山びこが関係している。

昔の人々は、遠くへ放った声が跳ね返ってくる反響を、だれかが自分の物真似をして遊んでいると考えた。その物真似をしている妖怪か精霊が、木霊だ。

もっとも現代では、山びこはただの声の反響として知られているし、木霊も山びこの別称として認知されている。声が幾重にも反響する現象を木霊すると言うようにだ。

「精霊なんて、いるわけないじゃない」

「ごもっとも」

「じゃあ、なんでそんなバカげた話するの」

「それが、どうやらバカげたとも言い切れねぇらしい。実際、被害に遭ったって連中がちらほらいてな」

そういえば最初に、被害者がどうとか言っていた。

しかし、解せない。