「瀬戸岡さん優しいからさ。木霊のせいで休んだヤツらの面倒見てくれとか頼まれたんじゃってな」

「……」

「それでなくても、なんか理由があるとかな。なんかないの?」

それで、あると答えれば話は終わる。あとはその理由を調べればいい。さすがにそこまで本人から聞き出すのは無理だろうから、こちらで。

違うと答えれば、彼女がなぜ被害者を看病しているのか、謎となる。謎が謎を呼ぶというのは、迷宮の入り口ではない。疑わしきものをためらいなく疑える、保証書なのだ。

「うん、そう。あるの、理由」

「へぇ。どんな?」

いま、燈哉も、ゆいも、拍子木も、心中で間違いなく拳を握った。

そして――

「こだま」

「……」

間を空けての答えに、時間はおろか、血流まで止まった。

失笑のようなものが、聞こえる。

「私もね、木霊、聞いてるの。だからみんなのつらさ、わかるんだ。それで、かな」

「……へ、へぇー。ま、マジで? 木霊かぁ、へぇ」

「「……」」

冗談にしては、しゃれにならない。

木霊の四辻で木霊の呪いにかかっている人間は例外なく、精神衰弱に陥っているというのに。