―― うっさい ――

と、自分の声が言ったのを聞いて、ゆいは顔をあげた。

ゆいと燈哉は辻の中心に立っているわけではない。廊下の窓に背中を預けているので、背後の渡り廊下はもちろん、正面の渡り廊下も、窓が邪魔になって死角になっているところがある。

いま、声は背後からした。

あくまで、四辻と認識できる圏内で。

「燈哉、いまの」

「は?」

「私の声、したわよね」

「したか?」

「したわよ」

言いながら、ゆいは背中を窓から離した。背後の渡り廊下を覗き込――む時に、

「ひゃっ」

「いづぁっ!?」

ちょうど歩いてきていた人物に、ぶつかった。

鼻面を打ってうめいてしまったゆいに対し、相手はよろけて尻餅を突いた。

つい数十分ほど前に別れた、瀬戸岡亜美だった。

「おっとー。ゆいお前、人を弾き飛ばすなよ。大丈夫か、瀬戸岡さん?」

うっさい!と怒鳴るより、

「え、せ、瀬戸岡さん……?」

疑問のほうが口をついて出た。

燈哉に手を貸されて立ち上がった瀬戸岡亜美は少し恥ずかしそうに、笑った。ちょろりと舌が出る。お嬢さまはお嬢さまだが、その茶目っ気が人気を底上げしているのだろう。