八木麻衣子が木霊を聞いたという四辻については、すでに頭の中に入っている。学園内、校舎内、学園外を問わない木霊の出現については、まるでストーカーである。

木霊はストーカーなのだろうか。そう考えたら、バカげて笑えた。あまりおもしろくないが。

ひとりで苦笑しながら歩き出そうとしたゆいは、向かってくる女子生徒に気がついた。長い黒髪に、赤いカチューシャをした同学年の少女。聞き込みをした数人のひとりで、八木麻衣子の部屋が何号室か教えてくれた生徒だった。

買い出しの帰りなのか、ネギが飛び出たスーパーのビニールを提げている。彼女も寮生なのだ。

「あら」

と、向こうもこちらに気付いて、上品に微笑んでくる。名前はたしか、瀬戸岡亜美。挙措から言葉遣い、成績などすべてにおいて、学園内でもお嬢さまと知られている生徒だった。

瀬戸岡は、首をわずかに傾げさせる会釈をする。

「千里ヶ崎くん、宮部さん、また逢ったねこんにちは。どう? 今野先輩と八木先輩には会えた?」

「おかげさまで。ありがとね、瀬戸岡さん」

「どういたしまして。お役に立ててよかったわ。……二人とも、部屋にまだいるのかしら?」

「でしょうね」