飛びかかるように紙切れを奪った今野佐紀は、そこで、冷静になる。

「あ、あのこれ……なんにも、書いてないようなんだけど……」

白紙の、ただの、縦長い紙切れである。

今野佐紀が期待した、読むに読めない漢字の羅列も、不可思議な記号も、星の印さえもない。

ただの、真っ白いコピー用紙に見えた。

すらりと背筋を伸ばし、腰に手を当てたゆいは、

「なにが書いてあるかなんて、アナタに見えるわけ、ないじゃない」

不敵に笑ってそう言い、

「ほぉら燈哉! 撤収するわよ。なにぼやっと倒れてんのよ」

「あ、お、おう」

成り行きをぽかんと見ていた幼馴染みに蹴りを食らわせて、部屋から出ていく。

ドアを閉める時、なにも書いていない白紙を不安げにじっと眺め、しかし大事そうに胸に押し当てている今野佐紀を、垣間見た。