しかし、どうやらゆいの読み違いらしい。

「なんですか……まさか、アナタまで、木霊木霊って……?」

「え?」

「もう、やめてください……もう木霊はいやあっ……!!」

「ちょ、ちょっとっ!!」

買い出しの袋をいっぺんに投げ出して、今野が背を向ける。突然の猛ダッシュだった。

今野が身構えたのは、ゆいらが風紀委員だからではない。木霊に怯える八木麻衣子から恐怖が伝染し、神経過敏になっていたのだ。

「ちっ、なんで逃げんのよ」

「ゆいが凶暴だからだろ」

「うっさいわね! 燈哉、確保よっ!」

「へっ、指図されるまでも、」

ない、と答えた少年は、しかし今野の背中を追いかけるのではない。

二階の高さから飛び降りた。ゆいは特別驚くこともなく、腕組みをしながら燈哉の白シャツが夏の空へ飛び出していくのを見ていた。

「もう、いや、もう、やめて、木霊なんていやよ、もう――ひっ!?」

そしてちょうど、喚きながら階段を降りてきた今野の目の前に、見事に着地する。