「ま、桜木七不思議ってやつだよな、これも」

螺旋坂をのぼりながら燈哉がぼやき、ゆいは鼻で笑った。

「それじゃあなに? そんな嘘臭い地域伝説、あと六つもあるわけ?」

「ああ。えーとたしか」

燈哉が指折り数える。

「避けえぬ螺旋坂、咲かずの大桜、戻れぬ古井戸、聞こえずの竹林、底見えぬ沼、変わらずの信号、開かずの岩戸……それで七つだ」

「なによそれ。否定語ばっかり。しかもなんか、信号機だけ現代のものが混じってる」

「まあ、七不思議の名前なんてみんなそんなもんだろ。信号機はラストに加わったんじゃないか?」

「六番目に読み上げられたのに?」

「う~む。さあ」

燈哉が肩を竦めるものだから、ゆいも肩を竦める。

「はーあ。まあなんにしても? そんな七不思議があるなら、木霊の四辻なんてのはちゃっちゃと矯正しちゃわないとね」

「ン? なんでだ?」

首を傾げた燈哉に、ゆいは綺麗に笑ってみせた。

母親譲りの切れ長の瞳が、そういう時だけ怪しく、なまめかしく細る。

「だって、木霊の四辻なんてのがいつまでもあったら、八不思議になるじゃないの」