「…藍侫、」

それは、若き賢君の、一度だけ漏らした弱音であった。

「王座は、重いな。とても、重い―――」

次はこの国だと王が言えば、兵士は一目散にそこに駆けてゆき、淡々と戦をする。沢山の血が流れる。命を狩っては、国を取ったぞと喜び勇んで帰ってくる。兵士に罪は無い。その罪を全て背負うのが王であり、王はそれを生業として生きるのだ。


嗚呼、何と悍ましきかな。

そしてまた、玲瑛は幾千の命を刈り取る。その、優美な白い指で。


「……藍侫、伝えよ。次は珪を討伐する!」


―――その先に見えるのが、血が流れることのない平和な世なら。



喜んで、鬼にでもなろうではないか。

それが、王が死者へ唯一出来る手向けであり、供養であるのだから。