―榛・王都。


「…、あの小童」

榛の官吏・晃蝉は唇を噛んだ。あと少しという場所で、佳が玲に寝返った。それを何処からか知った民は一気に榛への信頼を失った。

民は自分の命を守る事しか出来ぬ。
それ以上の功に見合うだけの権利は与えていなかったのだから。だから、自分勝手に民の意志を弾圧することは出来なかった。


王や官吏の権力は、その為に大きい。自分の命だけではなく、全ての人民の命を守らなければならないからだ。
その権力も、簡単に手に入るものではない。王家に生まれればともかく、晃蝉の様な平民の、いや、それ以下の階層からのし上がるには、相当な努力が必要であった。更に女子は劣るという考えの中で、榛の官吏になったのだ。

民の希望であった晃蝉には、国を、民を守るという義務が有る。民を死なせることは出来なかった。


彼女の弱さは、その情に有る。