「『お兄さん』、お名前は?」

あの時は尋ねる必要性がなく、聞かなかった名前。彼は答える。

「藍侫(ランネイ)。趙藍侫だ。字は蒼禀」

藍侫は笑いながら答えた。

「今はどうしてるんですか?」

「慎ましく暮らしてる。妻も娶った。…あの日お前を抱いたのが過ちだったかといつも心配になる」

苦笑しながら、藍侫は漣犀の頭を軽く撫でた。

「男色じゃないなら、当然です」

漣犀はあっさりと答えて、笑った。

「漸く近衛隊長に上り詰めた。沢山の命を踏台にして、ね。しかし、戦場には相変わらず馴れない。戦う事は出来るようになったけれど、やはり殺すことには躊躇う」