その日のステージは、いつもと違う雰囲気だった。


増田、いやステージの上の城颯は、ジャスのメロディーに身体を揺らしながら、時に激しく、時に軽やかにピアノを奏で、いつしか聴衆も一緒になってスィングしていた。


「おじ様、天国の千鶴子さんに見てもらいたんだわ、きっと」


身体を揺らしながら、舞が呟いた。


「そうだな、千鶴子さん、泣いて喜ぶだろうな……」


店を出た後、舞をアパートまで送る。

舞は入学後、綾との合宿生活を打ち切り、一人、大学近くにアパートを借りていた。

大学の練習室を最大限に利用するためだ。

舞の父親も、その方が舞と母親、両方の為に良いと納得し、許してくれたのだ。


「最近、ママ、パパの話ばかりするの。

パパと何処へ行った、パパがどう言った、何をしてくれたって……」


舞が嬉しそうに繁徳を見上げる。


「ママが幸せそうで、あたし嬉しいな」


アパートの前で立ち止まり、舞にキスをする。

(嗚呼、舞、愛してる。お前を傷つけることなんて、できない)


「今日は俺、帰るわ……」


繁徳はそっと舞から身体を離すと呟いた。


「えっ、何で?」


月に一度、舞の一番安全な日、繁徳は舞のアパートに泊まった。

たぶん今日がその日。

でも、何だかそんな舞の気遣いに、後ろめたさを感じていた。


(確かに、母さんの言う通りだ。それに、俺が求めてるのは舞の身体じゃない)