「……いい加減諦めたら?」
私は愛刀をきつく握り締め、相手に斬りかざす。
言うまでも無く、ここは裏の世界で―――
私、【銀 桜華】は″任務〟という名の下で動いていた。
仲間は作らない、そっちのが楽。
「…た、助け…ぎゃぁぁぁ!!!」
ぴしゃ、
私の顔の右半分に血が飛んだ。
目に―――入ったかもしれない。
既に右目はこの仕事のせいで失明している。
今も包帯を右目に巻いている。
でも――――
「さようなら、哀れな標的さん」
右目も左目も真っ赤に染まった紅なんだ。
「…もうこんな時間」
今日は学校も無い。
あんな仕事の次の日が休みとは神様からの贈り物??
思わず顔がにやけ…「気持ち悪い、桜華」
不意に後ろから双子の弟の櫂李から罵声が。
櫂李も裏で情報収集という仕事をしている。
―――手は汚していない。むしろ〝汚させない〟
「気持ち悪いってどういう「電話」
「え?」
「呉羽んとこに来いって」
徒歩でもそうきつくないところにココはある。
古びた小さな隠れ家的な感じだ。
全然高級感は無い(笑)
″裏は夜に集会″というイメージは全くの嘘だ。
むしろ堂々としている方がバレない。
ガチャ、
相変わらず酒臭いね、ここは。
「おぉ、おーうかっ♪」
ぎゅ、と不意に抱きつかれた。
いら…
私は顔をしかめて呟いた。
「すぐさま、お前の首を切り落としてあげようか?」
脅し加減で鞘に手を置いた。
すると、ばっと離れる。
「悪いってー、そんな怒んなよ」
「分かってるなら触んないでよ、馬鹿悠李」
悠李はここでも名を連ねているとこの幹部。
私もよくそこには仕事関係で訪れている。
「呉羽兄は?」
「さぁ?どうせバーの方で接客してんじゃないの?」
「あっそ」
ここは幅広い年代の人に親しまれている。
呉羽兄もここの総合責任者だ。
ここでは仕事のやりとりも行われる。
「呉羽兄、ココア作って」
私はいつもみたいに頼んだ。
黒髪で眼鏡をかけた彼はゆっくりと微笑んで
「あいよ」って言った。
でも、それが可笑しかったらしくて
「ぎ、銀狼がココア…?」
「てっきり大酒豪かと…」
―――大酒豪じゃなくて悪かったな。
私はむす、とした顔でココアを口にする。
甘党でなにか悪いことでも?
笑っていた奴を殺気を込めてにらみつけたやった。
(怯えて逃げていったのは言うまでも無い)
「あー、怖い怖い」
「…何よ」
「爽、悪ふざけも大概にしろ?桜華、ちょっといいか?」
不意に後ろから声をかけられる。
そこには呉羽が立っていて――――もう一人。
不気味な笑みを浮かべた″黒虎〟がいた。
「何、その黒虎さんが何か?」
「あ、覚えててくれたんだ。ありがと」
黒髪に深い碧の目で私を見ている。
にっこりと笑ったまま。
なんか好きになれないな、こいつ。
「お名前は?」
ずうずうしいな、お前。
「桜華。銀桜華」
「俺は黒峰爽、昨日君が殺してくれたのは―――俺の知り合いだ」
…変わった。
爽の目は私を睨んでいた。
口元は微笑んでいるけど、目は笑っていない。
「―――私は私の任務をこなしたの」
「ふーん。まぁ任務なら仕方ないかな?」
私は軽く鞘に手を置いて睨むと、彼は「何もしないよ」と笑った。
「おいおい、黒虎と銀狼が仲悪いのは分かるが…」
呉羽がやれやれ、と首を横に振った。
「ここは死闘は御法度、どうせそのうち仕事上殺りあうときだってあるだろうよ」
「まぁね」
私は不謹慎だった。
さっきの呉羽の言葉に思わず笑みがこぼれる。
でも―――それは、爽の声でかき消された。
「…それは出来ないな、俺と組んでもらう」
「なっ…」
「あれ??何、そんな話になってんの!?」
悠李とか色々寄ってくる。
……私、そんな話知りませんけど。
「折角のお誘いだけど、断る」
「まぁその反応は想定内かな?」
爽は私に近づいて、軽く耳打ちした。
『ちょっとお話したいことが』
『嫌だって言ったら??』
『それは…もう無理や』
―――チッ…
「悠李たち、ちょっと応接室借りる」
「え、ちょ…どういう」
「まぁ俺たちの秘密のお話か?」
なんて、爽はいちいち話を大きくするようなことを言う。
明日の裏的社会面に
″銀狼と黒虎、熱愛発覚!?!?〟とかなったらどうする気だ!!
「大丈夫だ、そんなことに俺がさせないから」
応接室に入ったとたん、そういわれた。
「…え?」
こいつエスパーか、何か?
殺し屋はここまで来ると超能力まで手に入れるのか…?
「…て、私はそんな力持っていない」
私が真剣にソファに座り込んで考えていると…