それから30分後。
海里はガチャガチャと玄関の鍵を開けて、あたしの出迎えを待つことなくリビングに入ってきた。
「美海!!」
「え…海里?どうして……」
出席したホテルからここまでは、車で1時間はかかるのに。
「気になって、猛スピードで帰ってきた」
「え?」
「警察に見つからなくてよかったよ」
ネクタイを緩めながら、引き出物と思われる大きなブランドの袋を床に置くと、そのままあたしに近づいてきた。
「美海…やっぱり泣いて……」
「え……」
「目が赤い」
今から目を冷やそうかと思っていたのに、全て海里にはお見通しだった。
ゆっくりあたしを自分の胸に引き寄せ、強く強く抱きしめる。
海里の鼓動が尋常じゃないくらい速くて、それだけ急いで帰ってきてくれたのが分かった。
いつものようにあたしの頭を優しく撫でて、頬にキスをくれる海里。
「気にしてたんだろ?」
「え?」
「ミサキのこと」
「……」
思わず目を逸らしてしまった。
また、涙が出そうになったから。
「バカだな。美海が心配することは何も」
「イヤなの……」
また海里の言葉を最後まで聞かずに遮ってしまった、バカなあたし。
だけどもう、止められなかった。
「海里が『ミサキ』って名前で呼ぶのも、今日…昔付き合ってた人たちと再会するのも……全部イヤなの」
「美海……」
「幸せだから…今すごく幸せだから……失うのが怖い。海里が離れてくのが怖い。他の人にとられるのが……怖い」
さっきあんなに泣いたのに。
まだ涙が溢れてくる。
今日は久しぶりの2人っきりのデートなのに……
とびっきりの笑顔をあげたいのに……