『美海?ごめんな、邪魔が入って』
ミサキさんをなんとか追い払ったらしい海里が、何事もなかったように言った。
……本当に何もなかったんだと思う。
だけど、胸が苦しい。
『美海?』
「……聞いてるよ?」
『美海…泣いてるのか?』
「どうして?」
『声が震えてる』
知られたくない。
こんな心の狭いあたしなんて。
『海里を信じてるから』なんて言っておきながら、こんなことですぐに心が折れそうになってしまう弱い自分を気付かれたくない。
「大丈夫。気のせいだよ」
『美海、ミサキのことなら……』
「海里!赤と白と黒、どれがいい?」
海里の口からもうこれ以上他の女の人の名前を聞きたくなくて、あたしは咄嗟に誤魔化した。
もしかしたら、ミサキさんのこと『元カノ』だって正直に話していたのかもしれない。
『過去のことだよ』って、そう言ってくれるつもりだったのかもしれない。
だけど、あたしはそれを聞きたくなかった。
だって今日は、バレンタインデーだから。
沈んだ気持ちのまま、2人で過ごしたくなんかない。
『美海、何の話?』
「さっきお義母さんに教わったおまじないなの。何色がいい?」
『お袋が?うーん……じゃあ、白』
「白ね…分かった。じゃあ、待ってるね」
そう言って、一方的に電話を切ってしまった。
これ以上話をしていると、誤魔化しきれなくなるから。
頬を伝ってる涙の理由を。
海里がいいと言った白色の下着を手にとって、ギューッと抱きしめた。
いつからこんなに弱くなってしまったんだろう。
昔はもう少し強かったはずなのに。
海里が彼女とキスをしている場面だって、何度か見かけたこともあった。
それでもあたしは海里の前では、ちゃんと笑っていられたのに……。