「バカ。最後まで話を聞けって」
「聞きたくない!!」
寝室の扉に手をかけた時、その腕を掴まれて羽交い絞めにされた。
「や…イヤッ!!離してよ!!」
「落ち着けって、美海」
「離して…海里なんて大ッ嫌い!!」
「落ち着け!!」
初めて聞いた海里の怒鳴り声が、家中に響いた。
我に返ったあたしは、そのまま力なくペタンと床に座り込む。
海里は掴んでいた手を離し、大きなため息をついた。
もうあたしたちは終わりなの?
そう思える瞬間だった。
不思議と涙は止まっていて、息をすることさえ忘れていた。
そんなあたしを海里は抱き上げて、寝室の中へ入っていく。
もうあたしは抵抗しなかった。
人形みたいにただ抱き上げられて、最後の言葉を待つしかなかったから。
海里はあたしをベッドに座らせると、涙の痕が残る頬にキスをした。
「美海、ちゃんと話そう」
「……」
「美海が心配することは何もない。浮気だって、1度だってしたことない」
「え…?」
「さっき謝ったのは、不安にさせてごめんって意味なのに。先走りやがって、このお姫様は……」
クスッと笑いながら、もう1度、今度は瞼にキスをくれた。
「不謹慎だったな、オレ」
「え?」
「美海が嫉妬してくれて嬉しいって」
「……」
「嫉妬する方はたまったもんじゃないよな。オレがそうだから」
「海里が?」
「ああ。美海のこと信じてても、他の男が美海の視界に入るだけでイヤだ」
「ウソ……」
「こんな情けねーこと、ウソで言うかよ」
今度は鼻にキスをくれた。