「あー、そうだったね。わたしは『朱葉 火織(あげは かおり)』。ここの二年だよ」

普通に名乗った
というか、普通に名前があったことに安心した

このわけ分からん状況で、捉えどころのない恐怖の対象にも人間味があることにホッとした

「白鷺 涼(しらさぎ りょう)。一年です」
簡潔に涼

すると朱葉と名乗った少女がオレの方に視線をよこす

今度はオレってか

興味が涼に移ったと油断していた

はっきり言って、こんな危険生物には個人情報を一切、教えたくない

でも、あれは確実にオレを待ってる目だよなぁ……

あー…、くそっ!
「東雲!東雲 数馬(しののめ かずま)だ!」

「ふぅん……」
ニタリと笑う

なんで、いちいち怖ぇーんだよ!?

「ところで。アナタはなんでカズ君を襲ったんですか?」
涼が聞く

そうだ
それがよく分からん
返答次第じゃ泣かすぞ!オレの涙腺をな!!

ついでに涼!
お前がなんで、しれっとビックリ人間の仲間入りしてるのかも、お兄さんは知りたいんですけど!?

「共振したからよ。このカズ君がね」
特にもったいつけることもなく、ペロッと朱葉は答えた

てか、共振?
まったく意味が分からないのデスガ

「ちょっと朱葉さん!」そうだ、言ったれ涼!

「勝手に『カズ君』なんて呼ばないでください!馴れ馴れしすぎます!」
ソコかい!
ツッコむとこ違うでしょうが!

「あれー?気に入らなかった?」
いちいち挑発的に

「なぁに?涼ちゃんてば、カズ君が好きなのかにゃ?」
『好き』という単語が出たところで、
――バチン、と涼のこめかみに紫電が走る

「あははっ!図星ぃ?」――ドンッ!

重い音がした瞬間に、涼の体は朱葉に肉迫していた

どうやら今の音は、コンクリートを涼の足の裏が抉った音らしい

なんつー脚力してんだよ!?

距離を詰めた涼は上体を低く、下げた手刀を振り上げる

先ほどよりも激しい雷光
すでに、指の輪郭すら見えない
まるで光の剣のようだ