日も高く登りだした春の空

突如、携帯が鳴りだす
激しいドラムの音が響き、周囲の空気を染めていく

マスクを被った9人組

¨猟奇趣味的爆裂音楽集団¨というキャッチフレーズでデビューしたこのバンドの1st、2曲目
かなりハードでヘビーな着メロだ

「ぅ…ん……?」

むくりと起き上がったのは、ひとりの少女


寝ていたのか、まだ光に不慣れな瞳が、抗議するかのように瞼を細めさせる

周りを見れば、校庭と校舎
日だまりの下、芝生の上に寝そべっていた

数秒後にはリハビリを終え、本来の大きさであろうキリッとした視線を取り戻す

フレームなしの眼鏡を掛け、どこか知性をのぞかせる整った顔立ち

肩ほどの長さで揃えられた髪

スラリとした体躯は彼女をより一層、引き立たせ、人を惹きつける


しかし、すぐにそれは間違いだと気付くだろう

少女が静かな動作で電話にでる――ピッ
「やかましいんだよ!葛原ぁ!!」

表情が一変した
優等生……見ようによっては大企業の秘書にも見える眉目秀麗さは一瞬で吹き飛ぶ

粗暴、粗野
どこか野性的な風格


「よーくも、わたしの安眠を妨害してくれたわねぇ」

電話越しに弁解するような、非難するような気配

少女は携帯を握った手に青筋を浮かべるほどキツく握りしめ――某腕時計とコラボした頑丈携帯でなかったら、確実に電池カバーがおしゃなほど――相手に怒鳴る

「あぁっ!?アンタがわたしの何を見てるってのよ?」
また、電話の相手が何かを喋る

「やってるってぇの!朝、6時には来て!チクチク探ってたわよ」

どうも、この少女と電話の相手はそりが合わないようだ

そのとき、フェンスの向こう
こちらへ駆けてくる少年を見つける

「ちょっと待って」
おもむろに少女が眼鏡を外すと
軽く少年を睨む
――瞬間、少女の瞳の虹彩色がかわる

周囲の芝生が少女を中心にざわつく

電話の向こう、激しいハウリング音が鳴る

それと同時に、フェンスの向こうの少年の顔が少し歪む

「ははっ!見つけたわ!葛原!?聞いてんの!?」

それでも
フェンス越しの少年を見て、ニヤリと笑う少女は獲物を見つけた獣のようだ

少女が疾走る