「女子であったか……」

あの日、

「あなた、女子でもよいではありませんか。婿をとらせるなりなんなりさせれば……。それより、この子を可愛がってくださいませね」

わたくしがこの世に生まれた時から

「それは勿論だ。わたしの可愛い娘なのだから……」


歯車は少しずつ動いていた。

この動乱の裏側で小さくても、

大きな歪みの元となる――。





***





「雪様、お茶のお稽古のお時間です」
「あら、ツネ。まだお昼前ですわ」
「先日申しましたじゃありませんか。次のお稽古は先生のご都合で午前中にいたします、と」

このネチネチグチグチと五月蝿いのは、我が河田家の使用人、ツネ。

我が家は江戸でもそこそこ名の知れた名家で、お屋敷の規模も、使用人の数もそれに比例してそこそこに大きい。

と、ここで注意しておきたいのは、
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。
例え幕末を舞台としてても、ほぼフィクション、ということです。

話を元に戻しますと、
そんなに使用人が数多くいるのに、何故わたくしにつく使用人がツネ一人だけなのか、という事です。
まあ、――理由はいたって簡単。

「はあ!?聞いててねぇよ!今日は恭次郎と昼食とお花見の予定だったのに!」
「どうせ茶菓子に夢中で聞いていなかっただけでしょう。いい加減年頃の娘らしくなったらいかがですか」
「きぃ〜!!何だよ皆しておしとやか、おしとやか、って!わたくしは恭次郎の元へお嫁に行くんだからいいのさ!恭にぃ……恭次郎はこのままのわたくしでいいとおっしゃったんだから!」

はあ、はあ、と肩で息をする。
――…そう。これが原因だ。
おしとやかとは程遠い、手のかかるお嬢。
使用人の間での印象はそんなもんだろう。だが、今回の使用人は今までで一番続いている。ツネは何事にも同じず、わたくしがこんな風に怒鳴っても、シレッとした顔で澄ましている。