私はそのまま帰ろうとしたが、宮田が走ってきたからやめた。

私の近くまできて言った。

「ほら、この傘貸してやるから、使え。」

私は驚いた。ありえないと思っていたからだ。

人が他の人に優しくするなんて、最近の人間がするわけがない。

第一、私もしない。
そんなことをしても、無意味だから。

だからだ。私が、この男の行動に驚いたのは。

いつまでも、黙っているのはよくないと思って、私は口を開いた。

「ありがとうございます先生。」

宮田は言った。

「ああ。なんなら、あげるぞ」

私はそれに答えた。

「いえ。そこまでしていただくわけには…」