そして、楓君の顔がものすごく近づいてきて…


唇に何か温かいモノが触れた。


………え?


すぐに楓君の顔は離れていったけど…


あたしは全ての思考回路が停止したまま、ただ呆然と楓君を見つめた。


すると、ちょっと顔を赤くしながら伏し目がちに呟いた。


「……目閉じろよな」


その言葉に、とっさに口に手を当てた。


「…え?あの…えっと…?」


動揺しまくって、文章になっていない言葉を発した。


えっ!ちょ、ちょっと待って!


ま、まさか……?


今のって…………キス?


そう気付いた途端、腰が抜けて尻餅をついた。


楓君が尻餅をついたあたしの前にしゃがみ込んだ。


「あ、あのさ…俺は美鈴しか頭にねぇから。だから…色々心配すんな!」


自分の髪をクシャクシャさせて、横を向いたままそう言った。


“美鈴しか頭にねぇから”


え?ほ、ホント…?


そんな言葉が楓君の口から聞けるなんて思ってなくて、再び無言のまま見つめた。


でも言葉の意味をちゃんと理解したら、何だかすごく嬉しくて、ちょっとだけくすぐったかった。



…ねぇ、楓君?


こんなこと絶対言えないけど、あたし…キス初めてじゃないんだよ?