「この短い時間に何があったの?」


「……男が立川に何か言っただけ。そしたら、いきなり…あんな風になった」


俺は、自分でもよく分かるほど暗い声で答えた。


「やっぱりあの男、侮れないわね…」


彩花ちゃんは何か考えながら、呟いた。


それからずっと立川は、俺には見せたことがないような顔を、男に見せていた。


その度に、悲しいような切ないような気持ちになった。


そんな顔するなよ…


少しの苛立ちさえ感じた。


…でも、目が離せなかった。


例え、その笑顔が他の男に向けられていても…


俺は、立川の色んな表情を見逃したくなかったんだ。


これが、人を好きになるってことなのか…


こんな苦しい思いをしながら、みんな恋してるんだな。


きっとあの男だって、立川に対する思いは俺と同じはず。


そう思うと、こんな風にこっそり後をつけている自分が恥ずかしくなった。


だけど…真剣に魚を見たり、笑ったりしている立川を見ると、どうしてもこの場を立ち去ることができなかった。


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立川達は一通り回り終えると、最後に売店に寄った。


俺は彩花ちゃんに一言声をかけ、トイレに向かった。


…俺、まじで情けないよな。


そう思うと、ため息の1つや2つも自然と出てきてしまう。