「…ほら、スタジアムで会ったヤツ…」


その言葉を聞いた瞬間、勢い余ってつまずいてしまった。


「きゃっ!」


ヤバい、コケる!


そう思ったけど、楓君が支えてくれた。


と安心したのもつかの間。


わっ!楓君の腕がっ!


急に心拍数が上がって、つい口走ってしまった。


「あっ、ありがと!やっぱ楓君はあたしのお兄ちゃんみたい!困った時、必ず助けてくれるんだもん」


楓君は一瞬止まったけど、掴んだままのあたしの腕をグイッと引っ張った。


えっ?


急に体が暖かくなった。


「俺は…兄ちゃんなんかじゃねぇよ」


楓君の声が信じられないくらいすぐ近くで聞こえてきた。


それで初めて今、楓君に抱き締められてるんだってことに気付いた。


そう気付いた途端、ビックリして放心状態だったあたしは、


「いやっ!」


そう叫んで、楓君の体を引き離した。


そして訳が分からないまま、その場を走り去った。







何…?今の…


何がどうなってるの?


何が…起こったの?











あたしの頭は、パニックを起こした。