バレンタイン前のあの日、駅前で、

『オイ、ナギサ、お前何やってんだ?』

忍が珍しく女の名を呼んだ。

忍の後ろから覗きこむと、ナンパを撃退すべく、チャラ男の腕をガッチリと掴んだ大柄な綺麗な女がいた。

気の強そうな、男前な女。

ところがさ、

『シノブって、見かけによらずモテルからねぇ~断り方知らねぇから、全部貰うし、おまけに全部食うし』

俺が何気なく言った言葉に、急に沈み込むように大人しくなる。

『ナギサ、ということだから、義理チョコはいらねぇ』

忍が照れ隠しに言ったであろう言葉を鵜呑みにして、見る見る目を涙でいっぱいにして、逃げるように走り去った。

その姿に、胸をズッキューンと射抜かれた。

こんな可愛い女がいたんだ…

ドキドキしながら、恐らく本命であろう、隣りに立つ超鈍感間抜けな忍をチラリと横目で見る。

『シノブくん、最低!』

と、もう一人の女に腕を叩かれ、それでも呆れ顔で、

『なんだ、あいつ……』

と、むっつり呟いた忍。

シノブとナギサ、
この二人が、ただの仲じゃないってことくらい、わかっていたけど、

ひと目惚れだったんだ……

ほんと、まいった……