Ⅹ（ｸﾛｽ）

リディアを乗せた車は、比較的ゆっくりとした速度で海岸沿の道を走る。

セルシオ海から大きくせり出した形の湾には、何艘もの漁船が白い姿を浮かべている。

空には沢山のカモメが舞い、穏やかに吹く風は潮の匂いを運んでいる。


「よぉ！カラス、珍しいな。今日はプライベートかい？」

道を歩く魚の網を担いだ漁師たちや、サーフボードを抱えた若者たちは、すれ違いざまに手を振ってカラスに声を掛けていく。


暫く嬉しそうに顔を輝かせながら辺りを見回していたリディアは、ふとある事に気付く。


「ねぇ、カラスさん、この道路、こんなに広いのに車が通っていないのね？」


「ああ、そうだね。

ロトスでは車はほとんど使わないんだ。

ちっちゃな島だから･･･。

あるのは、乗り合いバスと、俺のこの車みたいな･･･

あ、この車は、ほんとは仕事用なんだよ。

島の緊急時に使うヤツ。病人乗せたりするやつね。

そういう車くらいかな。」


「ああ･･･だから、こんなに空気が綺麗なのね。」